あゝ上野駅

4時前に新幹線で宇都宮に到着し、一件客を訪問しすぐに東京へ引き返す。相変わらず効率の悪い営業だが、これはこれで仕方が無いのが今のお仕事。まあ、こっちとしては新幹線乗って寝ている間も仕事とカウントされるんだから楽と言えば楽だが。

上野に到着したのは夜の7時前。当然、会社になんか戻らない。今日は直帰だ。折角だから上野で飯喰って、パソコン屋さんでものぞいて帰るかと、改札を出てトボトボ歩き出す。途中、駅構内に有る本屋を覗くがお目当ての本が無い。残念。本屋の前には強力な臭いのシュークリーム屋さんがある。どうも最近流行ってるのか結構この店あっちこっちにあるような感じだ。数人が並んでいる。猛烈に食べたくなるが、格闘家がこんな高カロリーのシュークリームを食べる訳にはいかないので30秒の葛藤の末、かろうじて店の前を通り過ぎる。

上野駅の構内には随分と色んな店があるもんでごちゃごちゃしている。シュークリームの臭いのせいで急に腹が減ってきた。取りあえず何か喰おうとアメ横方面の出口に向かって歩いていった。
ふと気が付くと、オイラの横を年の頃60歳位のおばちゃん、雰囲気からするとおばあちゃんと呼びたくなる、がこっちを見ながら歩いている。おばあちゃんは何か照れくさそうな顔して何か話しかけたがっている。身なりからして田舎から出てきたおばあちゃん、そんな感じだ。エキゾチックな頬紅が田舎を感じさせてくれたぜ。
照れくさそうに何か言いたげだ。そうか、この上野の人混みで迷子になったに違いない。オイラはそう判断した。きっとこのおばあちゃんは”西郷さんはどこ?”ってオイラに聞きたいのだろう、そんな感じだ。オイラが”どうしたの?”って聞くと、小声でブツブツ言っていて聞き取れない。シャイなおばあちゃんだぜ。オイラは立ち止まり、耳をおばあちゃんの顔の方に向け”なーに?”と聞き直す。おばあちゃんは弱々しい声で照れくさそうにちょっと訛ながら”私とマッサージ行って、それからホテル行こうよ!!”

おい、このくそババア。何だそりゃ。オイラがあんたとホテル行って、肩でももんでやるんかよ。しっかしおばあちゃん、その年でまだ頑張ってるの?
オイラはこのおばあちゃんの突拍子な申し出に思わず、上野駅の人混みの中で豪快に「ハッハッハッハッハ」と声を上げて爆笑しちまったぜ、恥ずかしい。
今まで繁華街とかで色んなポン引きさんに声をかけて頂いたが(付いていった事はないですよ、念の為)こんなおばあちゃんに声掛けられたのは初めてだぜ。あのおばあちゃんに付いていく野郎はいるのだろうか。世の中謎が多いわ。